皆さんは岐阜が、県下に様々な国家を内包している非常に特異な地域であるとご存じですか? 南飛騨を中心勢力とする「鶏ちゃん合衆国」、岐阜市を活動拠点とする「天ぷら中華人民共和国」、そして岐阜市京町界隈に彗星の如く現れた「冷やしたぬ王国(キングダム)」――。このように岐阜県各所には、様々なソウルフードの名を冠したグルメ国家が乱立。各国覇権を争いながらも、おいしく共存を続けているのです。
中でも今回注目するのが2019年に建国された「冷やしたぬ王国」。岐阜人の愛してやまないソウルフードの一つ「冷やしたぬき/冷やしたぬきそば」が、この夏コンビニ各社から販売されたのもセンセーショナルでしたが、「冷やしたぬ王国」は、その冷やしたぬきを愛し奉り、研究と普及活動を行ってきた愛好団体…いやいや王政国家!まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力図を拡大しています。
「冷やしたぬき」とは何たるか――?
私たちの心をとらえて離さないその神髄を知るべく、今回冷やしたぬき王国首脳陣に取材依頼。主要メンバーの一人・山本慎一郎さんの案内で、注目の冷やしたぬきを食べ歩いてきました。
この味こそが岐阜人のルーツ「更科」
「冷やしたぬき」の元祖といって、きっと誰もが思い浮かべるのが「更科」さん。
注文から着丼までの驚くべき速さ、相席スタイル、セルフ茶の巨大なやかん…等々こちらの流儀そのものも食文化の一端を担っています。創業は1928年の更科さんですが「冷やしたぬき」自体に着目してみると、現ご主人が小学生の頃にお客さんが好んで食べるようになっていったとか。
そんな更科さんの冷やしたぬきがコチラ。
そばの上には天かす、ネギ、ワサビ、そして甘辛く煮たお揚げ。多くの人が思い描く「ザ・冷やしたぬき」がまさにこの1杯なのではないでしょうか。思いっきりすすれば、濃いめのおつゆが絡んだおそばとサクサクの天かす、薬味の風味が一度に押し寄せて「やっぱりコレ!」と頷く味わい。定期的に食べたくなる理由をご主人の水野信さんに伺ってみると、気取らず食べられることに加えて「一見インパクトがあるようで後味さっぱり、意外とさらっとイケることかな」と、老舗らしい地に足のついた分析。一方山本さんは「油脂感のないそばに天かすが加わることで、満足度が断然上がる!」と、さすがの分かりみです。
さらに冷やしたぬきの歴史を深掘りしていくと、更科の先代ご主人のルーツは関西にあるのだとか。「関西のたぬきそば=油揚げがのったそば」と「関東のたぬきそば=天かすがのったそば」がココ岐阜で、丼の中も名称もハイブリッド感のある料理として新たに生まれているのも面白いところです。
さて今回、「冷やしたぬ王国」メンバーの田代さんに、更科には「七不思議」があると伺い、山本さんと一緒に、そのヒミツをご主人に突撃しました!
勝手に選定! 「更科七不思議」はコチラ
①2階のトマソン扉
②使われていな2本の青煙突
③「狭き門」の存在
④壁にかかったハンマー
⑤麦茶の出る蛇口
⑥メニュー名に「おばけ」と「ゆうれん」
⑦丼の色と存在しない伝票
ご主人がサクサク真相を明かしてくださったので、一挙紹介します。
まずは、①②。正面から見た更科さんの外観に注目してみると、2階部分に使い道が謎過ぎる、ぽつねんと存在する扉、さらにその横には使われている気配のない青い煙突。
ご主人によれば「2階の扉は機械の搬入口だよ。煙突はかつて換気扇があった頃の名残。店の規模に対して小さいので今は使っていないけど」とのこと。2階が調理場になっている更科さんならではの理由もあったんですね。
③の「狭き門」は、お店の裏側にある入口。主にテイクアウトのお客さんが利用する「第3の門」も存在します。ちなみに更科さんはおそばの持ち帰りをいち早く始めた店としても知られているそう。
④壁にかかったハンマーは、先代ご主人の遊び心で飾られたもの。「天」の文字は後から書かれたもので「多分『天ぷら』か『天下』の『天』じゃないかなぁ」と、ご主人。
⑤写真の水道は、なんと蛇口から麦茶が!管は、2階の調理場にある120ℓのお茶タンクに繋がっているそう。ちなみに更科名物のセルフ茶の巨大やかんは、4ℓ入りだとか!
⑥「おばけ」→きつねそば、「ゆうれん」→冷やしたぬきの麺がひやむぎになったもの。名前の由来は「『おばけ』はうどんがそばに化けたものだから、『ゆうれん』は、麺の見た目が幽霊みたいに白いから」だそう。遊び心がすぎる素敵なネーミングです。
最後に⑦。更科さんは、伝票が存在しない自己申告制のお会計が特徴。お店の方がどう判断しているかというと、トッピングすると丼の色を変えてメニューを把握しているんです。ちなみにこちらはお肉ののった「スタミナ」。上記の「冷やしたぬき」と器が違いますね。
作り手はもちろんホール側の技が光るのも、更科さんのすごさの一端なのかもしれません。
今回お邪魔して改めて思ったのは、実に自然体で良いものを提供されている姿勢。老舗の風格とはこういうものかと実感しました。
更科
住所 :岐阜県岐阜市京町3-4
営業時間:10:30~19:00(LO18:45)
定休日 :木曜
駐車場 :20台(2ヵ所)
問合わせ:058-265-9594
HP :https://www.tanuki-soba.com/
さて、後編では冷やしたぬき業界に吹き始めた新風と、現在の冷やしたぬき事情をご紹介。続きはコチラをチェックしてください。