2022年1、2月合併号の「白川郷の旅」で登場する白川郷名物・石豆富(いしどうふ)のお店「深山豆富店(みやまとうふてん)」さん。本誌でも紹介している通り、コロナ禍の影響や後継者問題、さらにはご主人・大野誠信が高齢になられたため、2021年3月に惜しまれつつ閉店しました。ところが同年9月、嬉しいニュースが。飛騨でネットコンサルティングやブランディングを行う「株式会社ヒダカラ」さんが事業を引き継ぎ、お店を再スタートさせたのです。
「地元の愛され店が復活」 、「名物の石豆富がまた食べられる!」。
消費者側からすればこの上なく喜ばしい話題ですが、「伝統の食を継承する」というのは、そんなに簡単ではないはず――。そこで今回、ヒダカラにて豆富事業を引き継いだ古田智也さんにお話を伺いました。
実は古田さん、2021年春までは東京の商社マンだったとか。コロナ禍でのリモートワークを経験する中、働き方も含めた価値観が変化して地元への想いが増すように。観光地としての飛騨を盛り上げることにやりがいを見出してUターンを決意し、ヒダカラへ入社しました。
「面白いベンチャー企業があるなと思って6月にヒダカラへ転職し、7、8月は大野さんの元でゼロからみっちり豆富作りを学びました。9月10日に事業譲渡を完了して9月18日に正式オープン、今に至ります」
お店の継承もですが、古田さんの人生そのものの大変化にも驚き! ネット通販等をメイン事業とするヒダカラにとっても、製造・販売事業に取り組むのは初めての試みだったそうです。入社すぐにそんな大事業に抜擢された古田さんでしたが、チャレンジ精神溢れる会社の方針に共感、
「失われる危機に瀕した“いいもの”を未来にしっかりと繋げていきたい」
と、豆富作りから販売まで精力的に取り組んでいます。
縄で縛れる硬さ! 「石豆富」の魅力
ではその話題の「石豆富」、皆さん食べたことはありますか? 石豆富は白川村伝統の硬い豆富。作るときに水の量を極力抑え、さらに固める際に圧力をかけて水分を抜くことで、ギュギュッと大豆が凝縮した仕上がりに。こんな風に縄で縛っても崩れないほどの硬さです。
山深い豪雪地帯ならではの貴重なたんぱく源であり、保存食でもあった石豆富。大豆の旨味と目の詰まった豆富は、鉄板で香ばしく焼いた豆富ステーキが定番料理ですが、薄く切り分けてお刺身のように食べたり、天ぷらにするもの◎。炒めても崩れにくいため、夏はゴーヤチャンプルーに使うのもお勧めだとか。これは家庭でも、色々な食べ方を試してみたいですね♪
デザインも専門にするヒダカラさんだけあって、パッケージもとってもお洒落です。
白川郷の支え合いの制度“結”の精神や伝統の“継承”、石豆富を縛る“縄”をモチーフにしたイラストがトレードマーク。こんな風にパッケージにも事業への想いが盛り込まれているのは素敵です。
もう一つの名物「すったて」を家庭でも
ヒダカラへの譲渡を機に、ネットショップもオープンした深山豆富店。石豆富だけでなく、新たに「すったて大豆ペースト」や「すったて鍋セット」等も買えるようになりました。
「すったて」とは「すりたて」という意味で、石臼で潰した大豆と味噌や醤油ベースの汁を合わせた白川郷の郷土料理。浄土真宗が根強く信仰されてきたこの辺りで、報恩講や祝い事等の席で食べられてきた地元の味です。さらに、その名が一躍全国を賑わせたのが2014年のこと。「ニッポン全国鍋合戦(※現在はニッポン全国鍋グランプリ)」で「白川郷平瀬温泉飛騨牛すったて鍋」が見事優勝したのです。
とはいえ「すったて」は、その名の通りすりたて大豆が信条。地元民でない限り、家庭で食べることはできない料理でした。そんな土着の味をこうしておうちで味わうことができるのも、とても嬉しいですよね。
作業工程を見せていただいたのですが、これは相当な手間暇!
大豆の皮を取り除いたら、石臼を細かく調整してすり潰す――想像以上に繊細な作業に、思わず見入ってしまいました。
ちなみにこのすったて大豆ペースト、後日市販の寄せ鍋の素に加えて食べてみたのですが…めちゃくちゃ美味!! スープが濃厚まろやかで、すご~く贅沢な味わいになるんです。とろっとしているからか、普段の鍋より冷めにくくて体がとっても温まりました(写真撮るのを忘れたのが無念…)。
白川郷でもすったて鍋をぜひ食べて
では最後に、この特製すったて大豆ペーストを使った「すったて鍋」が食べられる地元のお店を1軒ご紹介♪ 近所の常連さんにも親しまれる喫茶店「おお松」さんです。
こちらのお店では、自家製の手前味噌にすったてを合わせた味噌仕立てのスープがベース。具材は飛騨牛の他、ニンジン、ゴボウ、大根等の根菜類と季節の青菜、仕上げに地元産キクラゲがのります。
仕上がりは想像以上に真っ白。とろりと濃いアツアツのスープをすすると、大豆と飛騨牛の旨味、野菜の甘みがたっぷり。プリップリのキクラゲがいいアクセントになっています。
このすったて汁のおいしさは、”大豆のポタージュ”と称されることもあるのだとか。確かにこれは言い得て妙♡ 濃厚でクリーミーなスープは栄養も満点で、 寒い季節はひと際美味ですよ。
余談ですが「おお松」さんの甘辛く炒めたこの「てんころいも」も、激ウマでした😋 この小さなじゃがいもも、飛騨の特産なのだそうですよ。
異色のバトンで継承されている白川郷のダブルホワイト伝統料理「石豆富」と「すったて」。現地でもご家庭でもぜひ楽しんでみてくださいね。
深山豆富店
所/岐阜県白川村保木脇260-14
時/10:00~16:00
休/火曜
P/有
問/TEL.090-8956-3553
HP/https://miyamatofu.com/
SNS/Instagram @miyamatofu Twitter @miyama_tofu
おお松
所/岐阜県白川村大字平瀬126-41
時/10:00~13:30、15:30~18:00
休/水曜
P/有
問/TEL.05769-5-2118